アスベスト肺がん労災事件(勝利報告)
H25.11.15神戸地方裁判所において訴訟係属中(尋問終了後・結審前に)に神戸東労基署が自庁取り消し
【弁護団:位田浩弁護士・古川武志弁護士・三上岳弁護士・弁護士 波多野進】
平成26年1月4日
報告者:大阪 弁護士 波 多 野 進
(波多野個人の意見であることをお断りしておきます。)
(波多野進弁護士の一言コメント)
労災の行政基準は絶対的なものではなく、むしろ本件のように不合理な行政の基準が裁判によって改められてきているというのは過労死・過労自殺でもアスベスト事件でも同じという観点から、ご紹介します。
先行の検数協会の検数員のアスベスト肺がん労災事件でH24.3.22神戸地方裁判所判決、神戸地裁、H25.2.13大阪高等裁判所で何れも勝訴しており、同じ検数員の同じアスベスト肺がんの労災事件であり、かつ、石綿小体の本数も先行訴訟では741本であったのに対し本訴訟の被災者においては2551本の石綿小体が検出されていたことから、判決に至ったとしても勝訴判決を確信していた。
事案の経過・概要
被災者は、相手方に採用された1965(昭和40)年4月頃から1999(平成11)年8月頃までの34年間にわたって、神戸港において、輸出入される積み荷や揚げ荷の数量を調べる検数業務に従事し、その間、神戸港に荷揚げされる石綿の検数業務にも従事してきた。
検数業務とは、港湾荷役において、どのような貨物(品名、荷印、荷姿等)を、どれだけの数量、どのような状態(損傷の有無)で受け渡したかを確認し証明する業務である。
争点
1 業務起因性の判断基準
石綿による肺がんの認定基準(平成18年基準)は、①石綿肺、②胸膜プラーク+石綿曝露作業10年以上、③石綿小体又は石綿繊維+石綿曝露作業10年以上、④10年未満であっても胸膜プラーク又は一定量以上の石綿小体(5000本以上)・石綿繊維(1μm500万本以上、5μm200万本以上)が認められるものは本省協議、となっていたのに、平成19年基準では10年以上の石綿ばく露に加えて「石綿曝露作業10年以上であっても、石綿小体5000本以上」を要求し、本数が充たない申請については不支給とする扱いが横行しており、この平成19年基準が判断基準になるのかどうか争点となった。 本質は、10年ばく露が不明な場合の救済規定であるはずの5000本基準(つまり、)10年ばく露か5000本のどちらかを充たせば業務起因性を認めていたのに、両方を充たさなければならないとすることは不当な限定かどうかであった。
2 被災者の石綿ばく露の状況
被災者が石綿曝露していたことを示す客観的な資料が存在しなかった。存在するのは同僚の生々しい供述・証言が中心であった。
先行訴訟において、業務起因性の判断基準については事実上決着がついていたので、石綿ばく露の状況が唯一の実質的な争点となっており、この点についての立証ができれば勝訴は間違いないと言えた。
弁護団の方針
基準論については先行訴訟で決着がついているので、石綿ばく露作業の立証に力を注ぐこととした。
本被災者は海上検数業務と沿岸検数作業の両方を行っていたので、海上検数業務については先行訴訟での陳述書及び証人調書を活用ししつつ、沿岸検数作業の立証を中心に行うこととした。
石綿ばく露作業についての客観的な証拠がほとんどないアスベスト肺がん労災事件において、当時の石綿ばく露を具体的に語ることができることのできる証人を立てることができるかどうかで勝負が決まるところ、本件においては幸運にも同期入社と1年後輩の同僚労働者の協力を得ることができ、石綿曝露の立証は十分に行うことができた。
自庁取り消しの意義
アスベスト肺がんについては、石綿小体の本数の如何を問わず医学的な裏付けがあり、かつ、ばく露の事実さえ立証できれば、労災認定されるのが司法基準であることが既に先行訴訟で確立していた。
今回は、判決に至る前に、原処分庁が証人尋問の結果、被災者の石綿ばく露状況が間違いないと認め、自ら原処分の判断が誤りであったことを認め、いわゆる自庁取り消しを行った。司法で決着していた問題についてようやく行政自らが司法基準を追認したことに意義があろう(更なる敗訴判決による行政にとっての悪影響を考え判決を回避した可能性が高いと言えよう。)。
上述のとおり、医学・科学的知見・国際基準に真っ向から反し、神戸地裁判決や大阪高裁判決でその行政基準が完膚なきまでに葬り去られているにもかかわらず、国はアスベスト肺がんについて上記基準で運用している実態があるようである。
今後、アスベスト肺がん労災で戦う場合には、行政の誤った運用に負けることなくたとえ行政段階で負けたとしても、裁判では一定の石綿曝露作業の立証ができれば十分救済される(勝てる)と信じてあきらめずに戦い続けることが重要である。
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